2021年上半期雑感集

単独で文章を作らなかった諸々の感想備忘録。
「まともじゃないのは君も一緒」「パーム・スプリングス」「永い言い訳」「メゾン・ド・ヒミコ」「ルースター」「サマー」「キンキーブーツ」「文豪ストレイドッグス」(舞台1作目)「BANANA FISH 前編」について少しずつ書いています。

◆映画館
「まともじゃないのは君も一緒」
女子高生と塾講師のバディムービーみたいなさらっとした後味の恋愛もの。成田凌のメガネの華奢なフレームがいい。小泉孝太郎の顔の造形が以前から好きなんだけど、ホテルのシーンが怖すぎて悪寒が走った。モブかと思われた同級生カップルと結果的にすごく仲良くなっていくという存在のせりだし方が気持ちいい。素敵な店で素敵な相手とうまく距離を縮められた高揚感や自分が招いた事態で好きな人が別の誰かを注視する痛みなど、気に入ったところにちょっとずつ感情移入して少しだけ悶える、みたいなタイプの自分の好きな映画。

「パーム・スプリングス」
Twitterに書いた。
深く悩まずにクスッと笑えるし色彩もビビッドで眺めているだけで楽しい誰にでもすすめたい1本。ただし下ネタがちょっと主張する。

◆映画(配信)
永い言い訳
「すばらしき世界」が個人的にクリーンヒットしたので西川美和監督の過去作をチェック。本木雅弘と子どもたちのシーンは40前後の推しを持つ人が見れば絶対にやってほしいと思うこと請け合い。よい作品ではあったが、現実世界でなかなか接することのない殺人の前科を持つ者の半生を描いた「すばらしき世界」と比べたときに、結婚や子どもを持つことという主題がとられていることにより、それに対するそもそもの興味の度合いによって入り込めるかどうかが左右されるのではと感じた。引き続き過去作を遡りたい気持ちはあれどなかなか時間と気力が追いつかず。

メゾン・ド・ヒミコ
時代を強めに反映した衣装やヘアメイクの中で、いつ誰が観ても当世的に感じるであろうシンプルなオダギリジョーの佇まいが蠱惑的に光る。小さな事件をゆるやかに積み重ねていくも大局は動かず、心情だけが動いていく。柴咲コウが老人ホームの入居者のひとりと思い切り楽しむコスプレ姿がかわいい。主人公とゲイの面々の友愛がいとおしくなる。西島秀俊が出演しているのだが、びっくりするほど今と変わっていない。

◆舞台(現地)
劇団スポーツ「ルースター」
レミゼとか刀ミュとか規模が全然違う舞台も観てるから単純には比較できないけど、あえて上半期いちばん愛せた作品と言う。全体像はちょっとブラックなコメディなのに、ひとつひとつの笑いどころに邪気がなくて気持ちがいい。丸紅ほいほいほい! 登場人物は基本的に善良で、大学生グループの絶妙な距離感はリアルかつベタつかない。テンポがよくてぎっしりしてるのに疲れない不思議な後味。劇団スポーツは今後も絶対観るでしょう。

玉田企画「サマー」
ギリギリに着いて余ってる席を案内してもらったら舞台上の1/3が前列の人の頭で隠れて見えない自由席あるあるに久々にはまる。登場人物たちが陥っているどうしようもない状況や取り返しのつかない失敗をいつの間にか笑いにすり替えてしまう、自然なのに腕力の強い演出と芝居。笑いはしたけれど、陥ってしまっている側の方を身近に感じたため、過去や未来の自分が笑い飛ばされているような気持ちにもなり、MP満タンで観ないと削られそう。

◆舞台(上映・配信)
「キンキーブーツ」
Twitterに書いた。
このときは言わなかったけど、言っても仕方のないことだけど、あのとき日本版を観たかった。行ける舞台は全力で観る、それしかできない。

文豪ストレイドッグス」(舞台1作目)
能力アクションものを舞台でやるのは難しいという印象。アンサンブルの使い方がすごく演劇的で、そういうお約束を知らずにいきなり来た原作ファンやアニメファンが2.5次元として抵抗なく楽しめたのかどうかやや気になった。
一方で、植田圭輔さんの中原中也は素晴らしかった。キャラクターとしての存在の仕方を既存のメディアに寄せることで起こる効果を意識せずに2.5次元を観てきたが、アニメを正解にしてコピーするのではなく、それをもとにその人が舞台上に存在していたらどのようであるかを体現するというのはこういうことだったのかと唸った。まったく新しいアプローチをすることは悪ではないし、個人的には舞台として成立させるための各種改変はオールオッケーと思っているが、既存のメディアのキャラクター像が広く定着している場合、自分の知っている誰々と違うなという第一印象が受容の妨げになってしまうのかも、と初めて思った。その点、もし今後自分の好きなキャラクターに植田さんがキャスティングされたら、その時点で諸手を挙げて大歓迎するだろう。彼が続投できるうちに十五歳編をやってほしいものだと思っていたらすぐ発表があって上半期の中でもかなりいいニュースだった。

BANANA FISH 前編」
現地のチケットが取れず千秋楽の配信をリアタイ。舞台セットの立体感、秘密基地感に掴まれる。シーンが切り替わるときにセットに投影される映像は配信だと少し観づらかったかも。パルクールは映像でも見応えがすごかった。
アッシュ役水江建太のお芝居には圧倒された。カメラワークがついて顔がクローズアップされていたこともあり、これって映画だっけ?というくらいの表情に感情を乗っ取られるような心地になった。こういう役者との出会いがほしくて舞台を観ているような気さえした。ビジュアルが出たときにすごい作品になるという予感はあったけど、芝居もみんなよかったんですよね。ずっとお芝居を拝見したかった椎名鯛造さんはアクションもすごければ小粒だけど存在感のあるシンにぴったりだったし、個人的推しのマックスを演じた内田朝陽さんのアメリカンな振る舞いのこなれっぷりは気持ちよかった。そして久しぶりに見た川﨑優作くんがこんなにかっこいい役者になっていて泣けた。作品主体で広くゆるく観測することで思いがけない再会があるのも観劇の醍醐味の一つと言える。すべての若手俳優が素晴らしい代表作に巡り合いひとびとに愛されてほしい。
後半はどうにかして現地で観たい思いを強めた。