1月観たもの読んだもの

たいした量じゃないけど珍しく小説読んだりもしたのでなんとなくまとめ。

 

舞台「呪術廻戦」-京都姉妹校交流会・起首雷同-

前作に続き配信にて。年末にアニメ2期を一気見していてちょうど気持ちが盛り上がっていたことと、よくなったという噂を聞いて観た。当方、原作未読のミーハーアニメ勢。

総合して、観てよかった、面白かったとはっきり言える作品になっていたと思う。昨年たくさんの2.5次元舞台が区切りを迎えて、もう2.5次元って世間に求められていないのかもって少し落ち込んでいたんだけど(舞台という表現形式の裾野がいっそう狭まってしまうことに危機感がある)、こうして息を吹き返したビッグタイトルを目にすると、まだまだ舞台コンテンツは飽きられてないよね…って嬉しい気持ちになる。

2.5次元にも若手の育成という課題があると認識していて。30代後半でも10代の役をバンバンやれる業界だからこそ、名実ともに若い俳優にも大きな役を任せていかないといつか断絶が起こってしまう。その点、じゅじゅステは2.5の経験が少なめなのだろうキャストと流司くん初めとするベテラン勢が混ざっていて、いい構成の座組だなと思った。ベテランのパフォーマンスにギミックの派手さを合わせると、どうしても若手の芝居がギミックに負けて感じる瞬間はあるんだけど、そういう要素をどこまで使うかの線引きがシーンごとによく検討されているというか、役者が第一に活きるように調整しているのだろうなというのも感じた。

流司くんのアクションがやはりあたま二つくらい抜けているなという印象。小柳さんもさすがベテランって感じなので虎杖・東堂が揃っているシーンの見応えがすごかった。八百屋と表現するにははばかられるほどのきつい傾斜のついたセットなのかディスプレイなのか、その上を傾斜を感じさせない身軽さでぽんぽん動き回って、挙句の果てには客席と対面する壁(いわゆる第一の壁、背景)をちょっと駆け上っていたようにも見えた。超越的な身体能力。

あと、東堂が高田ちゃんのライブで後方腕組彼氏面してたとこ一番笑った。

流司くんの虎杖像は、前作のときは舞台オリジナルなものを感じたけど、アニメ2期で宿儺が焼き尽くした渋谷を見たあとの虎杖を知っていると、あそこにつながる虎杖なんだなと自分は思った。つまり、納得感があった。

代役の熊沢さんがよかっただけに、泰江さんが今作を経験できなかったのは惜しい。ひとつの役を継続して演じていくときに、経験しなくてもいい公演というのは存在しないけれど、でも伏黒の覚醒回であり姉への思いを明かす回であったから…。

他のキャストで言及しておきたいのは青柳塁斗さん。ペダステも追ってるんだけど、こういう役を極めていってほしいなと思いました。誰にも代えがたい星、もといカロリー。こういうタイプのお芝居を見ると、舞台って最高にワクワクするなって実感する。

ともあれ、このテイストを踏襲しての次回公演にも期待が高まる。現地にも行ってみたいな。

 

平野啓一郎『決壊』上・下巻

昨年ちまちま『マチネの終わりに』を再読していて(映画がすごく好きだったから定期的に読み返している)、その流れで平野啓一郎をもっと読みたいと思ってチョイスしたんだけど、2作目に読むのはこれじゃなくてもよかったかもしれないね!

上巻は昨年から1か月半くらいかけて読んで、下巻は5時間で読んだ。読み止めるタイミングが分からなくて一気読みしてしまった。

上下巻通して、共感めいたものをほぼ感じなかったというのがすごい。自分は何を観るにしても共感をキーにして理解していく方だから。誰にも感情移入せずに残虐表現やつらさを煽るような人物描写だけを楽しみに読み進めた、とは思っていないけど、正直、ここまでの推進力の果てに何を思えばいいかちょっとわからない。

読後感としては「すばらしき世界」にちょっと似ていた。内容がというより、ラストシーンへの持って行き方とか幕切れとか光の差し方が似ていると思った。テレビ中継で台場の様子を見たり、犯行当時のDVDを確認したり、作中に映像という媒体が登場するから引っ張られているというのもあるけど、映画を観たあとに近い気持ちになった。悪く言えば小説に求めていた読後感ではないかも。小説に求めていたのがどんな読後感かと聞かれるとはっきりとは答えられないんだけど…。

こんなに急いで読み切ってしまった理由を考えるに、ひとつは自分の力量で100%読み下せる難易度ではないということ。つまり若干読み飛ばしているから読書のスピードが上がっているという。もうひとつは崇を理解したいという気持ち。でもその気持ちが彼の最後の行動の決定打になるようになってる構成だということはちょっと考えたらわかって、人が悪いというかなんというか。

崇が犯人ならいいなと思ったんだよね。犯罪を犯すような人間で間違いなかったと思いたいわけじゃなくて。彼が犯人なのであれば、彼が長年苦しんできた観念について、彼以外の人間にも理解が及ぶ程度の平易な言葉で説明がなされるのではないかと期待したから…。

かなりキツい描写が多い作品で、すごく疲弊したけど、これに懲りて平野啓一郎を読むのはやめようという気にはならなかった。とはいえ次はもう少し明るい気持ちで読み進められるものが読みたいな。

 

「三度目の殺人」

「PERFECT DAYS」を観たあとにアマプラで観た。

いま自分が想定している、役所広司という役者が求められている在り方、みたいなもののど真ん中をいくような役だったな…。求められているものを具体的に挙げると、理性的であること、かといって冷酷ではなく十二分に親しみを感じさせる人柄、そういう人間味が普段は抑制されていること、みたいなところだろうか。でも抑制されているって感じるということは、内面の何かがいつか爆発しそうな予感も同時にもたらしているというわけで。乱暴にまとめてしまえば、危ういバランスを保って周囲と関わっている善い人の役、という感じ。

福山雅治演じる弁護士がまさに作中でまったく同じ動きをしているけど、役所広司という人間の中に自分の理想的な人物像(ここで言えば娘思いの父親)を見出してしまうという点は「PERFECT DAYS」とも近しいものを感じた。

役所広司という人が実際どういう話し方で、どういう感じの人なのかまだ知らないけど、4作ほど観て、心根は優しいひとなのだろうといつも感じるから、そういうポジションの俳優なのかもしれないし、そうではないのかもしれない…。役所広司のことをもっと知りたいけど、スクリーンの中の幻影でいてほしい気持ちもあり、インタビュー映像を見るかどうか悩ましい。

1点だけ作品について書いておくならば、これをサスペンス映画だと思って観ると肩透かしを食らうだろうということ。個人的にはストーリーに明確な落としどころがなくても、どこかしらに気に入るセリフかエピソードがあれば概ね満足できるけど、それでも期待したよりかはふんわりしたまま終わったなとは思った。犯罪の動機や真相がつまびらかになれば、容疑者のことを深く知ることができるだろうと期待を抱かせる構造は、『決壊』とも似ている。