あなたのハイローはどこから?と聞かれたら

わたしはザ湯から!と答える。

 

2018年8月、山下健二郎さんの主演舞台が遠い昔のように感じる。わたしは観劇が趣味で、最近は若手舞台俳優を推している。あの作品のキャストの中にもツイッターをチェックしているひとが何人かいた。そのつながりでビジュアルを見て、ようやく、本当にはじめて、健二郎さんの顔を認識したのだった。

情報や評判をうっすら仕入れてはいたものの、健二郎さんの舞台を観に行くことはなかった。推しの出演作が控えていてそれどころではなかったのだ。そんな折、ハイローのスピンオフがYouTubeで無料配信されることを知る。なんでも、1話数分完結で、ハイロー本編を知らなくても観られるワンシチュエーションコメディらしい。周りを見渡せばあちらこちらでハイローに狂う人々が目に入る世の中だ。本編に取りかかる気はないけど、これならハイローについて少し押さえられるかも。後学のために観ておこう。毎週末配信されるDTCのショートムービーを軽い気持ちで追い始めた。

この時点では本当に、本編を観る予定は一切なかった。ハイローの眼目の一つはアクションだと、繰り返し見聞きしていたからだ。わたしはアクションが大の苦手である。流血や暴力シーンを好まないのもあるけれど、とにかく目が追いつかない。何が起こっているかさっぱりわからないのだ。アクションメインの映像作品はほとんど通らずにきたし、それほど読まない漫画ですら、バトルシーンとなるとセリフだけ目で追うような人間だ。観ても/読んでも理解できないのがわかっていたから。わたしにハイローのことを教えてくれたひとたちも、アクション苦手なんですよねと言うと「アクションがダメなら…」と引いていたし、やっぱり自分にははまらない作品なんだろう。そう思って距離を取っていたのだった。アクションを敬遠する気持ちが、意外にもあとから効いてくる。

肝心のショートムービーはというと、面白く観た。テンポのいい会話劇で、世界観や登場人物の背景を知らなくてもけらけら笑える。このダンさんというひとがDTCのリーダー格で、テッツとチハルはその後輩? 2人の関係はわからないけど、テッツが2番手っぽいな。エピソード2のお湯がとにかく好きだった。毎週末入れ替わるエピソードを、いそいそと観るようになる。

 

ことが動いたのは9月17日の夜。推しの主演作を終えてすっかり燃え尽き、お酒を飲みながらMステをつけていた。そこで三代目のパフォーマンスをはじめて真正面から観た。週に数分だけとはいえDTCを追いかけてきて、ダンさんというコミカルな役をまとった健二郎さんがしっかり定着していた脳に、パフォーマー山下健二郎劇物だった。山下健二郎さん……。でかい声で呟いている。いつのまにか健二郎さんがすっかり気になっていることを認めるしかなかった。ザ湯公開まで2週間を切る頃だった。

その翌週に観た舞台が2本ともたまたま肌に合わなかったのも大きかったと思う。観劇疲れの心身に突き刺さる、ど真ん中のエンタメを欲していた。頭の片隅には、スピンオフのおしりにくっついている予告編があった。毎週リマインドされてきた、DTCが主役の映画。ギラギラしたオープニングに、華やかで楽しげな曲。どこか彩度の抑えられた映像はしっとりしていて心地がいいし、実は人情物だって大好物だ。何よりも、喧嘩0。あのハイローなのにアクションなし。わたしが頑なに距離を取ってきた理由たるアクションがないのなら、ハイローを敬遠する理由もまたないのでは?

結局何が決め手だったのかは、もうはっきりとは思い出せない。脳とツイッターが直通になっているのに、なぜかこの頃は健二郎さんやDTCについて特別さわいではいなかった。それでも、行くと決めたらすぐチケットを確保するように体はできている。DTC湯けむり純情篇公開前日、わたしは9月29日の舞台挨拶ライビュ付きチケットを取った。楽しみのあまり前日はうっすらとしか寝られなかったことだけを、よく覚えている。

 

結論から言うと、オープニングからたっぷり笑った上に、しとどに泣いてしまった。せっせと無料配信を観てきただけあって、すっかりダンさんとテッツとチハルがかわいいわけです。彼らのバックボーンも何も知りませんけど、かわいいので大丈夫です。かわいい。癒される。ずっとキレキレのおしゃべりしててほしい。

前情報(観ると決めてから健二郎さんのインタビュー1本と、湯けむり純情篇についてのざっくりしたコラムを1本だけ読んだ)よりかは本編らしきところから引っ張っている映像が多く感じて、おや?とは思ったけど、本編の情報はストーリーに深くは絡まず、絡んでいるかもしれないけど何もわからずとも問題なく、完全に3人の奮闘に夢中になっていた。

かわいいかわいいDTCが主人公ということと、彼らが薄幸の女将とその娘、女将の恋人を幸せにする話であるということさえわかればいい。実にシンプル。他人を幸せにする話なんて、普段なら確実に斜に構えてしまう。そんなの突然展開されても絶対冷めるんだけど、「あのハイローシリーズの」という助走とDTCのキャラクター像があるから素直に入っていけた。本編を観てもいないのにハイローへの信頼は無闇に厚かった。だってハイローにいるひとは、みんな楽しそうだったんだもん。とにかくザ湯は、あの日わたしが求めていたすべての入った、気持ちのいいお話だった。

 

その夜は感想をいいだけツイートし散らかして気持ちよく就寝する。そこまでは予想の範疇だった。翌日、お昼には本編がどこで観られるのかを調べていた。なるほど、Huluで配信されているらしい。でもトライアルは前に使ったし、普段動画は観ないから配信サービスに課金するのは如何なものか。唸りながら試しにアクセスしてみたら、なぜかトライアルが復活している。それがわかったらもう悩まなかった。

そこから2週間のうちにS1、S2、ザム、ザラ、レッレ、エンスカ、FMと順番に観て、ザ湯を3回おかわりし、EXILE TRIBE FAMILYとLDHTVに入った。怒涛だった。こんなスピードで何かにはまることがあっただろうか?


ザ湯は多かれ少なかれ、ハイローシリーズにおいては異色のと形容されるんだろう。でも、だからこそ、これまでハイローに近寄らなかったわたしにもチャンスが巡ってきた。うまいこと物事が噛み合って、ハイローに、ひいてはLDHに出会うことができた。そこから3ヶ月ほど経ってみて、未知だなあと感じることが多い。むしろ未知ばっかりだ。それさえ新鮮に楽しいくらいのビギナーだけど、まだまだ知りたい、ここにいたいと思う。