2022年3月の記憶

大人になったらここで服を買おうと決めていた店がある。先週、初めてそこでブラウスを買った。高かった。スーツやコートを除くと、今まで買った中で一番高い衣類だった。頭ではこのお金があったらこんな舞台にこのくらいの回数行けるじゃんと計算していた。でも前向きな気持ちで買った。こういう小さな願望を堂々と叶える積み重ねで大人になっていくのだろう。いや、既にそれなりの大人ではあるのだが。

今月はなんやかや元気で、活動的に過ごせた1ヶ月だった。買うべきものを買い、美容院でいつもより少しリッチなトリートメントをしてもらい、あちこち観劇に出かけた。春は年度の切り替えに伴う環境の変化があるのが分かっているので心底憂鬱なのだが、ここ数年は仕事上の切り替えが春に被らなかったから、だんだん抵抗感が減ってきているのかもしれない。知らんけど。

コンスタントに観劇はしていたがツイートできたのは1作のみで、代わりにブログを1本書いていた。

 

20180929.hatenablog.com


「怖え劇」は本当に面白くて、こういう瞬間のために演劇を観ているんだよな、くらいのことは思った。小難しくて突き放されるような分からなさではなくて、どうしてこうなってしまうんだろう?という現実と地続きの分からなさがあるというか。現実と劇中劇の境界が曖昧になる、演劇文脈のメタっぽい構造も含まれてるんだけど、それについてウンウン唸って考えなくてもついていける程度の複雑さだと思うし、お話についていけさえすれば必ず最後で感情を爆破してくれる。

ツイートでも逃げ出したかったって書いたんだけど、逃げ出さなかったのにはもう一つ理由があって。劇団スポーツなら無闇に観客を苦しめて放置して終わる作品は作らないだろうという信頼があったから。というのも、昨年春の「ルースター」が面白かったので、年末の「南瓜色の兄弟へ」も続けて観に行っており、何となくこういうものを作る人たちなんだなという積み上げがあったのだった。作風への信頼とか、あるいはそれを裏切られる新鮮さとかは、劇団を続けて観ていくときに獲得できるちょっと特別な面白さだよな、とも思う。とはいえそれをいきなり実行するのは難しくて、面白いぞ!って言っている誰かを信じ込むところから始まるとは思うんだけど。

でも、もし、小劇場でやってる演劇ってどんなもんじゃいって興味を持っている人がいたら、いま劇団スポーツがイチオシですよと伝えたい。

「怖え劇」は4/5まで配信中とのこと。

twitcasting.tv

 

全く言及できなかったものもあるのでまとめて振り返っていく。

 

unrato#8「薔薇と海賊

ぼーっとしていたら一切言及できないうちに大阪千秋楽まで終わっていた…。三島由紀夫ってこれまで全く触れたことがなくて、かえってフラットな気持ちで、身構えずに観に行けたと思う。3部構成で、しかも3部が30分だったのに驚いたことを覚えている。

現代のリアルな口語でやられていたら気が滅入ってしまっただろう内容だった。全部が全部ではないけど、比較的多かったと思う。そういうセンシティブな内容を、三島由紀夫の文体と、その文体がもたらす世界観を損なわないお芝居によって、演劇として受容しやすいように丁寧に形作られている作品だ、という印象を持った。

阿里子をどのような人物として演じるかによって大きく作品の質感が変わると思うんだけど、霧矢大夢さんはあの世界の柱としてゆるぎなく存在していた。多和田任益くんの帝一は子どもそのものという表情と振る舞いなんだけど、その高身長のおかげでただの子どもにとどまらず、アンバランスな魅力がよく出ていたと思う。

1幕で阿里子と帝一が二人にしか通じないおとぎ話の世界の言葉で語り合うシーンは、羨望を感じたというか、卑近なところでは他者との相互理解を考慮しない素の語りがそのまま通じたときの気持ちよさ、分かってもらえる安心感みたいなものを重ねて感情移入をしていた。それが3幕のラストで色鮮やかに可視化されて、世界が物理的に拡張される演出は心地よかった。冒頭から、シアターウエストってもっと広く使えた気がするなと思っていたんだけど、あの演出のためだったのかと合点がいった。

 

月組公演 『今夜、ロマンス劇場で』『FULL SWING!』

2018年のエリザベートを観てから月組のことは何となく気にかけていたのだが、まったく観に行く余裕がないうちに月城かなとさんがトップになっていた。ルキーニの髭面が本当によくお似合いだったのでずっと覚えていました。おめでとうございます。

今夜、ロマンス劇場で』はオタクなら一度は夢想したことのある、推しが画面を飛び越えてわれわれの世界にやって来たら…が実現してしまうというストーリー。後から知ったんだけど、2018年の映画が原作らしい。助監督として働く健司もスクリーンから抜け出してきた美雪姫もほどよくキャラクターが立っていて、すぐ好きになれたから楽しく観れたし、ライビュだったんだけど周りのファンと思しき人たちがすごく楽しそうにしていたのでそういうのも(準)現地の醍醐味だなと思ったり。ただ、オタクとしてのごく個人的な感情移入が多少勝っていた面もあるかもしれない。

お芝居とレビューが完全に分かれた2本立て形式のタイトルを観るのは初めてだったもので、『FULL SWING!』の方は正直どう観ればいいか分からず戸惑った。キャラクターを明確にされないと世界に入っていけないところがある。もっと生徒さんご本人への興味が高まった状態で観るといいのかもしれない…。今後も月組は優先的に観ていきたいところ。

 

ミュージカル『刀剣乱舞』幕末天狼傳2020

先月円盤を買ったきりになっていたが、ようやく観れた。初演は去年観ていて、観なおしてはいないので完全に感覚だが、初演では沖田くんへの気持ちに振り回されてしまっているところがあった安定が、再演では考えて動けている部分が増えているように感じた。あと、江水のあとに観たせいもあって、土方組はこの頃から心の成熟度が高いのだなと思った。むすはじ観てないから何ともいえないが…。

サブスクで観られる2.5次元、余裕のあるときにどんどん履修しなくてはという気持ちはあるのだが、実際余裕はないし、ペダステが観放題の順次解禁をやっている上に今週末にはくろステも来るし、もう永遠に追いつけないのではないかと弱気にもなっている。

 

映画は「おそ松さん」だけ観れた。それも公開2日目に観た。

アニメオタク兼2.5次元俳優オタクみたなことをやっているが、おそ松さんは一切通っていない。100:0でSnow Man目当てだ。しかもYouTubeとたまに素のまんまを追いかけているだけの超ライト層だ。許して。

じゃあなんでそんな張り切って観に行ったのかと聞かれると答えに窮するところではあるが、一言で言うならブラザービートのふっかさんがかっこよかったから、だと思う。前からメンバーの中で一番好きだったけど、より一番好きが確立された感。先に見たのがDance Practiceの方だったからそちらを貼る。

youtu.be

いい曲ですね。

予告を観た時点で「物語終わらせ師」なる概念にハマる予感が止まらなくなっていたんだけど、エンドロールを見たら脚本がシベリア少女鉄道の土屋亮一さんだったので完全に理解した。今度の公演は配信があるので、ああいうメタでめちゃくちゃなお話が好きな人はかなりおすすめ。

www.siberia.jp

人気アニメの実写化どうなのよ問題と切っても切り離せない作品だとは思うが、原作を知らない自分としては、演じるキャラクターのカラーとキャストの現在のお芝居をつまみ食いできて、エンタメとしてかなり満足した。お芝居の見せ方や面白さで言ったらめめが飛びぬけているのかな、という印象だったけど、恋愛ものパートを担うキャラたちが物語を奪い合う丸出しの攻防が好きだったから、そこに関わっていたメンバーは特によかったと感じる。八木莉可子さんのミステリアス増し増しの立ち居振る舞いにも大いに目を奪われた。


作品関係以外だと、講座を1つオンラインで聴講した。

www.nhk-cul.co.jp

太田基裕さんはいま生で観たい役者のひとりで、Twitterを見ていたらこういうお話をするということだったので気軽に参加した。印象的だったところを少しだけメモ。

  • 2010年の「青の戯れ」で演出家の中津留章仁さんに「そういう気持ちになったらその台詞を言って。そういう気持ちにならなかったら言わなくてもいい」という演出を受けた。
  • BGMも含め、役として音の情報を脳に入れるか入れないかは使い分けている。
  • ゾーンがずっと続くことを夢見て芝居をしている。それができたらそのものになれるから。それができたら満足してやめちゃうかもしれないけど、そういう瞬間があったらファンの皆さんに見てほしい。

ご本人のお話が興味深かったのはもちろんだけど、質疑応答でのファンの方たちの発言も印象的だった。何年の○○という作品ではこういうお芝居をされていたと思いますが…みたいなことをしっかり発言されていて、長く応援しているからこその「好き!」だけじゃない太田さんへのリスペクトが強く感じられた。自分は飽き性だからそれがかなりはっきりと羨ましかった。

この講座をきっかけに、講師をされていた須川亜紀子先生の『2.5次元文化論 舞台・キャラクター・ファンダム』を入手したのだが、第1章をようやく読み終えたばかりでまだリアクションが取れる状態ではない。上半期中には読み終わりたいが果たして…。

www.seikyusha.co.jp

 

まだいくつか書くべきことが残っているが、まとめられていないから今月はここまで。

今月も感想類に字数を使いすぎて力尽きた。ツイートができないなら400~500字でもブログに書くということにして、なるたけ時間をおかずにアウトプットするようにする。4月は6作観劇予定。なおさらどんどんやっていかないと。