レミゼ2021ふわふわ雑感

2年ぶり2回目の「レ・ミゼラブル」を観に行ってきた。
2019年のわたしは本当にしゃれにならないくらいお金がなくてB席しか取れず(チケットを取らないという選択肢ができなかった)、2階席の後ろから2番目の席で観劇したものだった。今回、帝劇のS席に座る夢が叶えられて嬉しい。相当小さい夢だが。
前回も特に予習をしなかったが、今回も同様に身一つで行った。でも暗転して「囚人の歌」の演奏が始まった瞬間にレミゼに来たという感激に鳥肌が立ったし、これからどんな展開が待っているか全部思い出せた。ミュージカルのほうがストレートプレイに比べて長く鮮明にお話を覚えていられるような気がする。
初めて観たときは途中からエポニーヌの心情や選択や結末にばかり注意を奪われて、視野が狭かったといえばそうだった。曲も「オン・マイ・オウン」がいちばん好きだったし。しかし今回はもっと違うところが見えたと思う。思う、というのは2019年の感想が残っていないからだ。エポニーヌ以外についての感想を頭ではよく覚えていない。ばか…。

今回よく見ていたのはジャベールだった。わたしが観たのは川口竜也さん演の回で、好きな声質の人だというのには冒頭ですぐに気付いた。その後どのシーンだったか、恐らくファンテーヌが連行されるところだったような気がするが、節をつけないセリフで「連れて行け」と短く言うところがあり、そこで完璧に掴まれた。ストレートプレイだったら歌や振りがつくとそれが気持ちの高まりやシーンとしての見せ場になったりするけど、特に全編が歌で構成されているミュージカルにおいては反対に、歌わないセリフが浮き上がって惹きつけられるなと改めて思ったポイントだった。バルジャンに命を救われて、それが原因で自分の道を砕かれて命を絶つジャベールというのが前回はよくわからなかったのだが、何がどうつながったか自分でも感知できないうちに突然理解できて、彼が飛び降りるシーンは辛かった(ミュージカルを観るとき、その日のコンディションによっては歌詞がぜんぜん聞き取れなかったりするので前回ちゃんと聞けてなかったという可能性は大いにある。でも好きな声だとより聞き取りやすいよね)。

バルジャンについても見方がかなり変わった。2019年にどなたの回を観たのかさっぱりわからないのだが、「彼を帰して」の繊細な祈りのような歌い方がすごく印象的で、直後に映画版を観たときにこんなふうじゃなかったと思ってしまうほどにしっくり来ていた。今回は恐らくあのような歌い方には出会えない、というか同じであることはないだろうとわかって劇場へ行ったのでネガティブな気持ちにはならなかった。どちらかというと、たとえば同じ危険なバリケードの中にいてコゼットの恋人の代わりに自分の命を捧げると歌うことができる心の強さというよりも、なんでだか肉体の強さに焦点が合った。ファンテーヌに出会う時代に既に、その年で馬車を支えて人命救助できるのかと驚かれていたというのに、コゼットが大人になったときにマリウスを引きずって家に帰れるなんて。スーパーマンのように絶対的な超人性ではなく、精神からにじみ出た信仰による肉体へのバフなのだろうが、そのあたりは不勉強なのでそうなんだろうなという予感でしかない。
とにかくジャベールとバルジャンがそれぞれ格好よく映ったのだった。

前回理解が及ばなかったという点についてはもうひとつあって、寿命を終えたバルジャンの迎えにエポニーヌがいるのはなぜなのかということだ。彼女が迎えに来るとしたらマリウスでしょと思っていた。でもその理由はシンプルで、傷ついたマリウスをバルジャンが救ったからなんだよね。愛するひとの命の恩人だから迎えに来たのだ。それに加えて、バルジャンの人生で迎えに立候補するくらい関係性が強かった故人は他にいないのだろうなとも。
普段感想を残すとき、自分はわからなかったことについてほとんど書かない。わかったことについてだけでも山ほど書きたいことがあるから、わからなかったことについて書く余力がないというのもあるし、わからないと表明することは自分の理解力の敗北だ、自由にあるいは勝手に批評することができる立場にありながらわからないとしか言えないことはダサいという刷り込みによる忌避感があるというのもある。あとは意地悪な気持ちで、わからなかった作品にその理由を教えてあげたくないみたいなときもあるけど、そういうときはそもそも感想を書かないので稀か。とにかく基本はわからなかったことについては忘れてしまうんだけど、レミゼのように何年かおきに同じタイトルを新たな気持ちで繰り返し観るチャンスのある作品は、わからなかったことを自分のためにただ記録しておくことにも意味があるなと考えを改めた次第です。
今回はわかったと思えたことが多かったからそんなに挙げることはないのだが、しいて言うならマリウスがどんな人間なのかがよくわからなかった。あんまり注目できていなかったのが主な原因なんだけど。初めて恋をする無垢な青年でもあり、一方でエポニーヌの気持ちに気付かずあれこれ協力を頼んでしまう無神経なところもある。バリケードの戦いに参加するようなはっきりとした思想を持った人間でもあるし、結婚式でのテナルディエに対する毅然とした態度も性格として考慮するべきだ。それらをつなげて観ることがうまくできなかった。次はもっとマリウスを見よう。

前回は先述のとおりオン・マイ・オウンで撃沈して号泣していたんだけど、今回はバルジャンの最期のシーンまで堪えた。泣くとマスクがびしょびしょになるし。そこでも落涙、くらいの量で耐えたのだが、カーテンコールでまあ号泣してしまった。マリウスとエポニーヌが手をつないで走ってはけたりとか、バルジャンとジャベールがさりげなく肩を組んでいたりとか、本編に紐づいた揺さぶりももちろんあるが、やっぱり公演してくれることが本当に有り難いという感動に尽きる。拍手できるのが嬉しくてまた泣いた。千秋楽まで無事に完走できることを祈っています。

内容とまったく関係ない観劇の思い出も書いておく。自分の隣が家族連れで、両親に挟まれる形で小学校2~3年生くらいの子が観にきていた。10才もいかない年齢にして親と一緒に帝国劇場でレミゼが観られる人生ってどんなだろうと、とてもじゃないけど裕福ではない地方の家庭に生まれた自分は正直なところかなりうらやましかった。この経験に価値を見出すかどうかはその子次第なので、価値観を押し付けないほうがいいに決まっているのですが。上演中にその子は何度か母親に質問をしていたようだった(声が聞こえたとかではなく、お母さんが体を傾けて耳打ちしている気配がした)。質問なんて内容をある程度理解していないとできないし、数回に収まっていたのを思うときっとそれなりに話について行けていたのだろう。そう想像して、今度は普通に尊敬した。何が言いたいかというと、あの子の人生に興味深い経験としてレミゼが残ればいいなと思ったのでした。面白かったかい? わたしはすごく面白かった。